図書館利用の理由

年が明けたら、家族で日本の実家に帰省する予定だ。去年の帰省の時、日本の母に、ハッピーデイに載せた原稿を持っていって喜ばれたが、今年はまた別の実家への手みやげができた。今年、日本の朝日新聞出版社から、「値段から世界が見える！」という書籍が出た。共著ではあるが、私もその本の執筆者の一人になった。今年は本を持って親元に帰ることができるのが嬉しい。この本は世界20ヶ国の物価に焦点をあてて、現在の世界情勢を読み、自国のあり方と将来への展望を考える本である。紹介された国は、アメリカ、イギリス、中国、スイス、オーストラリア、などに加え、アフガニスタン、ウズベキスタン、ケニアなどのあまり知られてない国までが多様にあげられている。その本の韓国パートを私が担当した。

　今までにも日本の雑誌などに、文章を書いてきたが、本になったのは初めてである。お世話になった方々に目に見える形で、本を送ることができて何より嬉しい。実は今回の帰省の折、友人や恩師たちとは別に、本を持ってお礼を言いに行きたい場所がある。それは私が育った町の図書館だ。日本が、まだまだ景気が良かった1990年代、町にはいろんな建物が作られた。中学生のころ、新設された公民館には、居心地の良い広い図書館があった。高校生の時の、受験勉強もここに通ってやった。図書館の本棚には、毎月毎月新しい本が補充される上に、個人ではとてもそろえきれないような相当数の本が揃っているので、本の好きな私には楽園のような場所だった。結婚後、自分の子供に日本語をしっかり教えようと思い始めた頃、韓国からの帰省期間、昔お世話になった町の図書館に連れて通った。図書館の日本語絵本の数々を子供たちに毎日読んで聞かせた。そのとき私の図書館カードを受け取った司書の職員が驚いていた。「こんな初期の番号のカード始めて見た！」と。なにしろその貸し出しカードは、開館時に作ったものだったから。

私の実家は、それは忙しい商売屋で、とても親が本を揃えて読んでくれるような環境ではなかったが、その反面うるさく干渉されることもない。私は図書館の本を、好きなだけ読んで気楽に過ごした。近くにあった図書館のお陰で、私はどれだけ豊かな読書体験を積めたか分からない。今でも図書館があったことに感謝している。だから今回、子供の頃からお世話になった図書館に、自分が執筆者となった本を感謝と共に贈りたいと思っている。

先日、我が家の末っ子を連れて高敞教育支援庁の裏の図書館に行ってみたが、質の良い本が沢山揃えてられていた。環境の良い読書空間をみて、自分の子供の頃を思い出し、懐かしい気分になった。そこにある本だけざっと数えても1万冊は越えていた。これだけ全部読めるなら、子供にとっての大変な基礎学力になるだろう。私も一緒に韓国語の絵本を読んでいるがとても面白い。子供と出来る限り積極的に利用しようと思っている。私の子供にも、「高敞で育って良かった。」と大人になってから、評価してもらえるように育てたいと思う。

しかし公共施設が充実して、図書館が近所にあるからといって、総ての子供たちが利用するわけではない。それはどこでも同じことだ。私の背後には、どんどん公共施設を利用しなさいといってくれた親がいた。父は「お父さんはこんなに町に税金をはらっとるんやで！あの図書館は、もううちの家だと思いなさい！」といって笑いながら税金の明細書を見せてくれた。私の両親は、大変明るく愉快な親だ。理解しにくいかも知れないが、積極的に母親が手を出す韓国の子育てと違って、私が育った頃の日本では、生活のこと、勉強のことに関して、かなり子供の自主性に任せられていたと思う。しかしわが家の場合、ただの「放任」ではなく、「あなたはどこにいっても、その場でちゃんとやっていけるから」という親の信頼の目だったと思う。やはり私が一番感謝するべきは、施設としての図書館があったことではなく、それをうまく利用することを教えてくれた親なのだろうと思う。今、私が自分の子供を育てながらそのことを思い返し、何度も何度も心で両親に感謝しているのである。一年に一度の帰省であるが、親が元気なうちに、出来る限り会いに行こうと思っている。